――数分後。
「こういう時は甘いものです。あいにく、片山先生のお宅には湯のみしかなくて、とてもチグハグだけど」
運ばれてきたのは、生クリームをこんもり盛ったホットココア。寿司屋の湯のみに注がれたふたり分のホットココアが、テーブルにそっと置かれた。
「……今日は、レモンティーじゃないんだな」
「お鍋でココア作ったんですけど余っちゃったんです。……ごめんなさい、嘘です。本当は、先生と同じものを飲みたかったの」
僅かだが、笑えた。
灯りの足りない部屋の中。無言でココアに口をつける。言われた通り、こういう時の飲み物だと感じた。
「心配、だったの」
とても小さな声で、藁科が話し始めた。
「今日の先生、……あの時みたいだったから、気 になって」
「……あの時って?」
藁科は、オレの何を理解しているというのだろ う。
藁科。おまえは本当、訳が分からない子だよ。
訳が分からないまま、藁科の次の言葉にオレはとても動揺した。
「……林檎が、降ってきた時です」



