瞳が映す景色


「っ!!」


手に持っていたこともあって音はすぐに鳴り止ませた。電源を入れて一定の時間が経過すると、お知らせしてから切れるタイプの体温計。我が家のと同じ。


――三十九度九分……。


消える前に確認したその体温にぞっとする。薬は病院で処方してもらったらしいもので、市販薬よりかは熱を下げてくれるし頓服薬も飲んだ形跡があった。冷静に見れば、入院の必要性もなく自宅療養で事足りるんだろうけど……。


呪いの魔術でもかけられてしまったみたいに苦しげに眠る白鳥さんの目覚める気配はなく、ただの風邪なのに、このまま眠り続けて戻ってこない恐怖に苛まれる。


もう少し、だけ……


……何か、あたしがしてしまってもいいだろうか。


少しの苦しさだけ、どうにかさせてほしい。


ごめんなさい。


誰にも聞こえない音量の声で謝る。


汗で剥がれてしまったのか、額に貼るタイプの冷却シートが枕の横に丸まっていて、それをどかす。新しいシートを貼り直すため、指で掬って額から髪をなくした。


一度目に好きだったときはもちろん、二度目の今も、不用意に近付ける人じゃなかった。


初めて触れた髪は、想像通りに柔らかくて、汗で纏まった束が、上げても上げてもまた落ちてくる。


――仕方なく、あたしは左手で髪を押さえながら、額の汗を持ってたハンカチで拭く。右手で持った冷却シートのフィルムを口で剥がし、多少さっぱりした額に貼り付けた。


けれど白鳥さんの目は開かない。呼吸は変わらずだったけど、シートを気持ちよく感じてくれたのか、眉間が少し緩む。


嬉しくて、もう押さえておく必要もないあたしの手は、白鳥さんの額から離すことも忘れ、そのまま、緩む腫れた顔に見惚れていた。


惚けたまま、


気付けば、その離すことを忘れていたあたしの手は、熱い大きな弱々しい手によって、握られていた。