落ち着きを取り戻すと、部屋の様子が目に入ってくる。
主に黒、所々に緑やベージュのアクセントが効いたリビングは壁紙が白いから重々しくはなくて、必要最低限の家具が並ぶだけだけの少し寂しげな室内は嫌いじゃない。
寝室側の壁に沿ってあったローソファー、その前のテーブルにお弁当を置く。
生存確認は果たした。もう帰ってもいい。無理矢理上がってしまったんだから早くそうしたほうがいい。
「……」
考えてることとは裏腹に、あたしは、きっちりボタンを留めていたコートを脱いでしまう。
部屋の中は効きすぎなくらいに暖房で暖められていて、少しくらくらしたからだ。
持参してきた氷枕やスポーツドリンク。冷やしておいたほうがいい。けど、冷蔵庫に手をかける真似は出来なくて。
もう一度、顔を見て安心したら、今度こそ帰ろう――約束をして、再び寝室に入り込んだ。
足音はさせない、気配は忍者よりも消す。コートを脱いだポートネックのニットと膝丈のスカート姿は身軽で、それらをなんなくやってのける。
ベッドの傍ら、枕元に近い場所の床に座る。近くにある加湿器の水量を確認するとほぼ満タンで、これなら足さなくても大丈夫そう。
白鳥さんを見ると、その瞼が腫れていて、顔もいつもより浮腫んでいる気がする。目を開かないままなのは都合がいいけど、早くいつもみたいにいい加減に笑えるようにと、何の手助けも出来ない身で思う。汗をたくさんかいていて、額には、柔らかそうな髪が貼りついていた。
サイドテーブルには、さっき拾った体温計の他にそのケース、風邪薬とお水が入ったペットボトルがあった。眼鏡、も。かけてるんだ。追加して、持ってきたスポーツドリンクを置いておく。
薬を飲んだ形跡があってホッとする。体温計をケースに戻そうとしたところ、それから小さな機械音が突然に鳴った。



