「白鳥先生、それ、食べないんですか?」
「うん? あとでね」
「……、じゃあオレが」
「オレが? ――って、ああっ!!」
唐突に、白鳥先生の手中にあったアップルパイを奪って食べてしまった。色々諸々、人として足りないとこだらけのオレ自身に、急に罰を与えたくなったんだ。
「ひどい……ゲンちゃん。そんなに藁科のアップルパイ食べたかったんなら、お団子とトレードすべきだ」
「もう両方ともオレの胃袋です。それと、『藁科の』というと語弊があります。クラスで仕入れたアップルパイです」
「細か~い。そんなの気にするんだ」
「……そう、ですとも」
まるで、少しの時間でも藁科の手に包まれていたものへの独占欲――そんなふうに聞こえてしまったオレは、とんでもないバカだ。
断じて、そんなことはない。
「あーあ。アップルパイ食べたかったな。持って帰りたかったな、お土産に。お詫びに今度、美味しいお酒でも奢ってね、ゲンちゃん」
「酒、弱かったですよね。甘味を差し入れさせてもらいますよ」
「ゲンちゃんと呑みに行きたい気持ちを汲み取ってよ。言葉尻を気にするくらいの余裕あるなら、人の心の奥底も視てよね」
「だから、そのゲンちゃんは……」
「はいはい。外出たら生徒もいるから言わないよ、片山先生。――さあ、校庭行かないとっ」



