「片山先生、私を信じて。好きなところや理由なんて、言い始めたらきりがないです。アップルパイだって、誰も見ていない隙に捨ててしまえばいいのに決してしない。そういうところも大好きです。――先生のすべては、私の琴線に触れるんです」
その顔は赤く見えて。それは、夕焼けのせいか、本物か、オレの錯覚、か。
廊下から第三者の足音がして、藁科は準備室を出て行った。
しばらくして、足音の主、白鳥先生が顔を覗かせる。
「ゲンちゃん。来ないから迎えに来たよ~」
「ゲンちゃんはやめて下さい」
「藁科いたみたいだけど? さっき澤にさ、僕が藁科に雑用押し付けたって非難されたじゃないかぁ。あのふたりはホント仲良しだ」
「……団子、持ってきてくれたんですよ」
「あれ? 団子は完売だったよね? 僕はそこで藁科からアップルパイもらったよ」
「……」
「イライラしてるけど、藁科と何かあった? 邪険にしちゃカワイソウ。ゲンちゃんが書いた看板、返却希望か律儀に訊きに来てくれたのに」
勝手に色々と想像しておいてくれ。真実なんか知られてたまるか。疑問形でばかり返してくる比率がいつもより多くて嫌になる。
……、
看板の返却とか、浅はかな理由だ。
オレが困らないようにと、いつも何かしら考えて会いに来ているのは分かっている。白鳥先生にもそれが通じてるってことは、オレが穿ちすぎだっただけで、藁科はちゃんとしてた、ってことなのか?
オレが凄くて、私は凄くない……か。



