「……えっ……?」
驚きの声とは裏腹に、もう、もしかしたら、菜々にはバレてしまってるかもしれないとは、思ってた。
「逃げても無駄だから」
「逃げ、ないよ……」
駅前の、大通りに面したガラス張りの建物一階。そこはいつも横目に通り過ぎていた美容室だった。
早朝に予約した旨を受付の女の人に告げ、菜々はあたしを促す。
手を引かれ――そんなことしなくたって、誰かにバレたらもう観念するつもりではいた――席に着く。髪を纏めていたゴムを外されると、後頭部付近からは、二人分の息を飲む音がした。
ちらりと鏡越しに見た菜々と美容師さんは、その痛々しい状態になっているあたしの髪を凝視している。
今日、初めて確認したあたしの姿は……、うん。相当酷い有り様で。
どんなヘアスタイルにしようかと、美容師さんは優しく訊ねてくれる。今の状態で可能な限り短くならないようにと伝えた。菜々を窺うと、何も言わずに真っ直ぐあたしを見ていて。もう、どうやってもショートカットにしかならないものだから、口にすることもなかったのかとぼんやり思う。
軽快な、きちんと手入れされた美容師さんの鋏の音は、あたしを整えてくれようと必死で。あの深夜の、自傷みたいな自己流の行為とは同じじゃない。
かろうじて残っていたカモフラージュ部分の長い髪が床に落ちていくと、涙が滲んだ。
一粒だけ、頬に流す。
「姪っ子ちゃんに、切られちゃったんです……」
呟くように言い訳してくれた菜々の言葉に、美容師さんは追求してこず、あたしの頭を丁寧に扱ってくれた。
あとは目を閉じた。終わるまでずっと。
声を掛けられ目を開ける。鏡の中には、ヘアスタイルも泣きはらしたあとの顔も、四年前の自分にとても近くて……
……痛々しすぎて見てられなかった。



