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明け方に自室のベッドに潜り込み、腫れたまぶたを冷やしながらうとうとし始めたのは、家族皆が各々仕事に赴いた頃のことだった。
「――なんだ。居たのね。てっきり何処かに泊まってきてるかとも思ってたんだけど」
「……菜々との約束あるからね。帰るに決まってるじゃない」
「ふぅん。私はてっきり、不甲斐なさに逃げ帰ってきたのかと」
「……」
タオルケットを頭まで被っていても容易に分かる。やっと深い眠りにつけそうだったあたしを寝かせてくれる様子もない、少し優しくない菜々の姿。
玄関は施錠されてるはずだから、きっといつもの通り、お店と繋がった勝手口からと促されて来たんだろう。玄関が開くと、この部屋の引き戸は揺れるけど、今日は物音ひとつしなかった。階段を、抜き足差し足で上がった真意は不明だけど。
「十五分あげるから、顔洗って着替えて、そしたら私に付き合ってね」
そんな短時間で……訴えようと覗かせた視線は、にべもなく断られ、菜々は階下のリビングへと降りていった。
「……」
化粧なんか、いつもの軽いやつでもする気は起きない。
まあ、いいや。どうせ時間はないんだ。まだ幾分腫れたまぶたはうつ伏せ寝の産物だと言い張れるし、冷水で洗顔すればどうにかなるだろう。
ぐずぐずしてたらきっと勘繰られる。昨日の失態を詰問されかねない。
重い身体を勢いで立ち上がらせ、二日酔いぎみの頭を支えながら洗面所に向かい、適当に洗顔と化粧水を。面倒でそれ以上は何のケアもせず、自室に戻り適当に洋服を選んで髪を纏めた。
十五分経ち。
姿見の中のあたしを確認ひとつしないまま、あたしは菜々に連れさられた。



