安易だと思ってたことなんて……一瞬で思い浮かんでしまった自分が嫌だ。


「まだ、聞いてもらってもいい?」


いい?なんて……相変わらずの、捨て犬ふうで問うなんて卑怯だ。


弱い。


弱いな。あたしは、本当に。


「あとちょっと、ね」


「うん。ありがとう」


上体を反らしたままだった白鳥さんの視界にはきっと三日月が、やや逆さまの世界が広がってるんだろう。


「頭、血が昇っちゃうよ」


「うん。だね」


重力に従順な柔らかそうな髪は、来たときにはいつもより大人しくセットされていたけど、すぐに手ぐしで解されていた。逆さま世界で全開になっていた額は、上体を直す際に前髪が降りて元通りとなる。


箒で店の周囲はもう掃いた。纏めて縛ったごみ袋は近くに置いて、あたしは身長分先のベンチに身体を向けた。




「――藁科を見てたら。ゲンちゃんを好きだと言う藁科と話をして、もしかして、あの年頃の女の子の好きだという気持ちは、安易じゃないのかもって思っちゃったんだ」


「……」


「全てを、鵜呑みにすることは、きっと僕には無理だけど、否定をしてしまったらいけない気持ちも、あったんじゃないか、って」


パーカーだけじゃ足りない。夜はまだ、凍えるほどに寒い。


藁科さんは……


「……藁科さんは、凄い女の子だね」


白鳥さんに、通っていない血を流れさせたんだね。


銃でも戦車砲でも解決できなかったそれを、ゲンちゃんを想う吐息ひとつで、きっと撃ち抜いたんだ。