……沈黙は、僅かな間。
気まずそうにこちらを窺う空気に腹が立った。
「……了解。……でも……」
「――ん?」
あたしが、困るんじゃないでしょ?
困るのは白鳥さん、なんでしょ?
菜々の推理通りかは知らないけど、人妻が近くに住んでるんだかどうだかは知らないけど、僅かでも誤解をされたら嫌なのは白鳥さんでしょ?ていうか一緒に歩くくらい何だっていうんだ。店での居座りはどうなんだ。
それを隠して、あたしの為だなんて最低だよ、白鳥さん。
「……なんでもない。帰る」
……そんなふうに、あたしの為だなんて言われたくない。
言葉は全て、飲みほした。
「じゃあ、あたしもう帰るから。白鳥さんは適当にごゆっくり」
「えっ」
何故、そんなに慌てる?
「用事思い出したから急いでるの」
望んだのは白鳥さんでしょ。一分一秒でもここに留まっていれば、恐れてるリスクは加速していく。
帰路の方向に身体を向けて歩き出そうとすれば、白鳥さんの余計な一言にまた苛立った。
「夜道は危ないからせめてタクシーでっ」
あまつさえ、タクシー代金を自分が出そうとポケットに手を入れ始める。
「必要ない。無駄遣い」
あたしはそれを一蹴して、それほどない自宅までの距離を全力疾走した。
背中には、あたしを呼ぶ声が暫く響いてきて馬鹿みたい。
指摘されたことが本当なら、あたしの左眉は、きって忙しなく動いていることだろう。
と、汗をかいて冷えた身体を、自宅玄関のドアで支えながら思った。



