瞳が映す景色


「今日は、楽しそうだね」


もうすぐ電車は最寄り駅に到着する。


座席に余裕はあったけど、あたしたちは出入口近くで壁にもたれながら到着を待つ。


車内は暑いくらいに暖房が効いていて、白鳥さんもあたしもコートの前を開けていたけど、そろそろと防寒準備を始めた。


「――、そう?」


「うん。いつもは落ち着いてるけど、今日はあからさまに楽しそうだ」


「そう……かな」


「そう、だよ?」


腑に落ちない顔を下げたあたしに、白鳥さんは首を傾げる。柔らかそうな髪がおでこを流れて、その仕草と共にいい香りがふわりと鼻をかすめた。


香水、とかはしてないと言っていた。シャンプーや柔軟剤だったらこの香りは好きなほうだ。人妻……の残り香では、今日はないみたいだし。


「……」


「どうしたの?」


「っ」


「怒らせちゃった?」


膝まで曲げて覗きこまれる気配を察知して慌てて顔を上げる。そんな小さなあたしじゃないし、慣れないことをこんな公衆の面前でなんて冗談じゃない。


「あっ……あたし、もうこれが仕様だし通常だから仕方ないんだけど。努力、を、してないわけじゃないんだけど……」


優しいお母さんみたいに見守るものだから、


「……あたし、不快感与えちゃうくらい、無表情なとこあるの自覚してるから、落ち着いてるなんて、気を使わなくていいよ」


オブラートに包まれた言葉はいらないと、少し甘えてしまった。