瞳が映す景色


なんでも構わないらしかったから、あたしは今日観た映画のことをパンフレットの表紙を胸の前まで持ってきて話す。


原作小説を偶然書店で見かけ、装丁とあらすじでお気に入りになる予感がしたこと。DVDレンタルの棚の間をあてもなく歩いていて、惹かれて手にとった物語が、同じ原作者の作品で、まだ観ても読んでもいないのに、なんだか感極まってしまったこと。


パンフレットをやっぱり見たいとせがまれたけど、それはやはり断る。好きなものに意固地になる悪い癖だ。


映画第一章を観る為に、東京まで夜行バス。たった一館だけでの上映だった映画館に迷いながら辿り着いたこと。


「ええっ!! 夜行バスなんて危ないじゃないかっ」


もう車内は空いてきていて、白鳥さんは日常のトーンで非難してくる。


「だって、レイトショー上映しかね、最初からやってなかったし、泊まるなんて贅沢出来ないし。……兄と同じようなこと言わないでよ」


そりゃ、色々あたしだって初めてのことだったし、心配しながらだったのは本当。けど、譲れないものだってある。


じゃあ――と、何かを決意したように、白鳥さんは天井を突き抜けた何処かを見上げながら、


「――もっと危険なく観られるように、僕は頻繁にこの映画に足を運ぶことにしよう。観覧数アップに貢献だっ!」


まるで、自分ひとりで映画業界を揺さぶるんだと奮起していた。


「うん。ありがとう」


とっくに、流れはそちらに動いているんだけど。


まあ、有り難く熱意は受け取らせていただきましょう。