瞳が映す景色


……結局、また誰かに言ってほしかっただけで。そうでなければこんや単純に浮上したりなんか出来ない。


北風が痛いのか、白鳥さんは緩く巻いていたマフラーをもう一周巻き付けて赤らむ頬を覆った。


「急行もうすぐだよ。車内は暖かいんだから」


「それまでそれまで~」


頭の良い人だから、全部分かってる。それでも、言葉がほしくなるのは皆きっと。なんだと思う。


だからあたしは、今日も今日とてその役割をこなす。


捨て犬を、飼ってはあげられないのに優しくするなんて残酷かもしれないけど、それはそれ人間だ。多目に見て下さい。もし真実犬なら、うちは商売をしてるから無理だけど、ちゃんと家族を見つけてあげるからと神様に誓う。


レールの軋む音が徐々に駅に近付いてくる。ホームにメロディが流れると、しばらくして緩やかに急行電車が滑り込んできた。


「あたし行くね。泣いていきたいならごゆっくり」


「帰るよ~。もちろん」


置いてきぼりにしようとすれば、親鳥だと刷り込まれた雛みたいに追ってこられる。


「立ち直り早いね」


「そうでもなきゃ、やってらんないよね。――ああ。でもあとひとつ」


「まだあるの?」


「妬いて妬いて、ゲンちゃんをからかって遊んじゃった。藁科のことで」


「――まあ、その件はいいんじゃない?」


軽く許すと、軽く魔性に微笑まれた。


それはもう、バッサリ断れなかったゲンちゃんの問題だ。