佳奈ちゃんは散々悩んだ。仕事への熱意があったからこそ、後ろ髪を引かれた。
思い悩んだ末、佳奈ちゃんは兄と話し合った。せめて、プロジェクトの明るい先が見えるまでは、と。兄はそれを快く受け入れた。婚約も結納も一旦凍結させようかという佳奈ちゃんの申し出をあっさり却下したらしい。
兄の行動にあたしは心底秘密に感動した。表に出さなかったのは、兄と妹ではくすぐったかったから。
けど、秘密にしておいて良かったと、これまた心底思ったのはしばらく経ってからのこと。
……兄は、佳奈ちゃんの状況や事の経緯を、あたしたちの両親に伝えるのを忘れていたのだ……自分が話すと佳奈ちゃんを安心させておきながら……。
夢の中で両親に話したことを、現実だと勘違いしていたらしい。
今時珍しい(らしい)正式な結納を済ませたあと、兄と両親の会話が噛み合わなかったことから皆が真実を知る。
怒ったのは母だった。二人が結婚したら同居と一緒に働いていくと思っていた母は、騙し討ちにも感じると兄と喧嘩をした。――佳奈ちゃんに喜んでもらおうと、暮らしにも仕事にも、影で色々準備をしていたらしい。仲がいいご近所さんにも、それは楽しみだと話していたのだそうだ。
煩い姑ではないと、娘の贔屓目かもしれなかったけど、そこはやはり、それなりに、何かしらあるのかもしれないとこのとき感じた。



