瞳が映す景色


今日のどの自分の懺悔に対する言葉なのか、白鳥さんは視線を夜空にさ迷わせ、やがて行き着く。


「いつも、真剣に取り組んでると思うよ、仕事。真面目ばっかは疲れちゃうし、相手も息苦しいし、いい塩梅だと思う。歪みは、ありますがね」


「ホントだ――ね。ありがとう」


一番の相談だったこと以外のそれらだって、白鳥さんの本当の心だ。教師の職や生徒が大切で、けれど信じない部分もあって。心の何処かで葛藤してもいるんだろう。


その葛藤を、あたしは歓迎する。


いい先生だと思うのは本心だ。歪んで見えるのも本当だ。


だから、沢山悩んで、もっといい先生になってほしい。


いい塩梅に歪みは矯正され、――いつか、あたしが誰かと結婚できたとして、白鳥さんが勤める高校に子どもを進学させたいと思える教師になってみせてよ。


白鳥さんが先生で良かったと思う気持ちを持続させてみせてよ。


ありがとうと右手を軽く振って、白鳥さんは単身マンションのアプローチに向かっていく。


途中、すれ違った同じマンションの住人らしき女の人に二度見で振り返られる。白鳥さんはそれに気にも留めずに軽やかに消え去っていった。きっと、日常すぎるひとコマなんだろう。


急いで食卓についたあたしは、兄に遅いとゲンコツをくらい、過ぎたおしゃべりは控えるようにと注意を受けた。けど、いつもくらいは構わないとも、ニヤリと凄まれた。