「おい小町っ!!」
突然のドスのきいた声に、白鳥さんの肩が上がる。あたしは普段から慣れてる平気なそれだった。
制服代わりのような三角巾を頭からほどき、後方二メートルの兄に振り返る。
「何?」
「飯」
兄は、一言だけ告げると自宅へと引っ込んでいった。外を覗きこむことはしなかったから、白鳥さんの面白い姿はあたししか知らない。
「もう鬼はいなくなりましたよ?」
ああいう兄のようなタイプは苦手なんだろうか。白鳥さんの顔はさっきとは裏腹に赤みを激減させていた。
「長居、したちゃったよね。帰るよ」
「気にしないで」
気になったのはあたしだ。懺悔は鬱陶しいけど、一年間聞いてしまったら詳細も知りたくもなる。
じゃあ、と力少なく去っていく白鳥さんの背中に声をかける。
「ゲンちゃんのことは、多分大丈夫だよ」
「多分かぁ」
振り返り、眉を下げて微笑まれる。
「ぐいぐい行くんでしょ?本気で嫌われるまでは頑張れ。助けてもあげれば恩も売れるよっ」
「え~。それで友達になれる?」
「なれるなれる」
「じゃあ頑張る」
「あと、――白鳥さんは、いい先生だとあたしは思うよ」
「っ!?」



