「――まあ、そうだね。女狐とは違うけど、でも何か被ってるっていうか纏ってるっていうか……う~ん。着ぐるみちゃん、だと臭いそうだから、真綿ちゃん?」
「……」
「それだと中身飛び出しまくっちゃってるよね~」
「吸収率は最高だと思いますよ?でも、形は保ってあげなきゃなんで、ぬいぐるみ辺りで」
方向が随分逸れた会話だ。もう、初めの話題が何であったかも忘れた。
見下ろすと、しゃがみこんだままの白鳥さんはお尻まで地面につけていて、暑い季節の夜のコンクリートは気持ちがいいと呆けている。
出来れば止めてほしい。光景的に、あまり商売の場の印象としてはよろしくない。
ベンチに戻るように促すと、長い足を一度上げ、お尻を軸に身体をジャンプで浮かして立ち上がった。
「で、僕、ゲンちゃんに嫌われたかな?」
「は?」
やっぱりそこが一番で相談なんじゃないか。自意識過剰な己など二の次で。――告白されたことは知らない演技で、ゲンちゃんを散々翻弄させてきたらしい。
「随分、ゲンちゃんが大切なんだね。藁科さんよりも?」
「比べる次元が違うよ」
「助けてあげればよかったのに」
「う~ん。僕には知られたくないかなって。誰にもバレてるふうでもないしゲンちゃんの真意も掴めてないから、当分は――」
――秘密、だと、長い節だった人差し指を、形の良い唇に乗せた。



