「――白鳥さんは、過去にトラウマありきでそんなになっちゃったの?」
細かな理由を、まだ聞いたことはなかった。そういえば。
「教えてほしい?」
なんでそんなに嬉しそうなのか。首を縦に振って興味深い仕草で頷くと、それはそれは滑らかに、形の良い唇は動いた。
「大したことじゃあないよ。それに、トータルだからどれがってことでもないけど。――教師始めて一年目に生徒から告白された。真剣だから、ずっと待ってるから答えをくれってさ。どうやったら傷を浅く断れるか時間を掛けて考えてその子の元に向かえば、彼氏とイチャコラしてたよ。なんかね、気持ちを伝えたら満足して新しい恋へ進めたんだって。泣いてる彼女を、彼氏は慰めてくれたんだって。あのときは僕が道化みたいだったなぁ」
「……」
「教育実習のとき、ゲームで僕に告白っていうのもあった。あっ、ピンチだったのは、断ったら気持ちが即憎悪に変わっちゃったみたいで、教頭に駆け込まれて僕に無理矢理襲われたって。あとは――」
「っ、もうっ……」
「あとはそれなり。――浅はかだな、安易だなって、改めて思うことばかりだっただけで、別にそれがトラウマってわけでもないんだけどねっ」
「もう、いいよ。白鳥さん」
当の本人は全く平気な様子で、あたしだけが痛くなってしまった。



