「あれっ? 先生と藁科じゃん。何してんの?」
遮るように誰かが教室の扉を開け入ってきた。
……危ねえ。もう少し早かったら、たとえオレが上に乗っかってなかろうとなんであろうと犯罪者になるところだった。
この教室に最初からいてくれたら良かったのにと、オレに勝手に恨まれた誰かは、もうひとりのクラス委員だった。
「海堂……帰ったんじゃ、なかったのか?」
「うんにゃ、バスケ行ってた。なんか用事だった? 言ってくれたら戻ったぜ。藁科はオレがいるの知ってたろー」
「うん。でも、私だけで問題なかったし。――ね? 片山先生」
企てた計画を暴露された藁科の表情は、思いつめた様子から開き直ったような笑顔へと変わっていた。
……努力の痕跡が痛ましいくらいに見えるのは、あざとさからか、本物か。
「あ、ああ、じゃあオレは行くから。っ、海堂、藁科を送っていってやれよ。もういつの間にか暗いぞ」
いつ時間はこんなに過ぎたんだ。空はもうオレたちを茜に染めることはなく、夜を迎える準備に取り掛かっている。
「別にいいけど。でも藁科、好きなやつに俺が彼氏って誤解されたくないだろ。おー、俺って気遣いの塊ぃ」
「うーん、それは悲しいな。なので、今からダッシュで帰るから大丈夫だよ」
好きなやつに動揺し、方向がずれた気遣いに愕然とし、思わず足がもつれて転んだオレの頭上で会話は交わされる。



