わかってる。藁科はそんな冗談言わない子だ。少なくともオレが知る限り。
……だから、やばい。
無理矢理に藁科を押しやり、オレは立ち上がった。
背中に視線が突き刺さる。
「ちゃんと一年間考えました。でも、どう転んでも片山先生のこと好きなんです。先生への気持ちで溢れて仕方がないんです」
こんなこと感じている場合じゃないのに、頭に浮かぶ。
――人を好きになると、声までもが知らず潤むんだろうか。
余計でしかない思考が纏わりついた。
「……なんで、オレ……?」
成績優秀、眉目秀麗な白鳥先生ならともかく、なんでオレ?
外見も中身もパッとしない。何処へだって目立たずに溶け込める自信だけは満点ある。
七年も遅くこの世に生を受けた藁科ことはという少女は、まるで宇宙人だ。『ワラシナコトハ』という感じだ。
……状況の処理方法が全くもって不明で脳が固まる。身体の動かし方まで分からなくなりそうだ。
振り返り、盗み見た宇宙人の唇が、また言葉を紡ごうと動く。
「私が……」



