嫌です――そんなこと言われたって……。
「嫌って。この状況は、いけないだろう」
「――ねえ、先生」
あと一歩だったのに。あともう少しで教室を出て、藁科に『気をつけて帰れよ』なんて言って……、
きっと、明日からは以前と同じように過ごせていたはず。
なのに、どれだけ天井へ目をやっても、藁科の顔が視界から外れることはない。これはいけない距離だと心臓が縮み上がる。
「先生、気付きましたね?」
「……何をだ?」
内の動揺など微塵も外に出してたまるかと、人生の中で、一番冷静に聞こえるように答えた。
「気付き、ましたよね?」
「……」
藁科の肩から滑り落ちてきたポニーテールの房は重力に従順で、毛先から優しくオレの口元にかかる。
そんな印象、ただの一度も抱いたことのなかった相手。それら一連の流れは、けれど、
とても――――扇情的だった。



