瞳が映す景色


静かな静かな、神聖で静謐な教室に、藁科のその言葉は否応なく響ききってしまった。




言ってしまった後、藁科は口元を押さえる。


多分……早く教室を出たほうがいい。


だから一歩、後退った。


「そ、そりゃあ嬉しかろうよ。でも、オレもうオッサンだしな~っ…………ざ、残念」


余計な言葉が混じっていた気がして後悔する。


見たことのない表情をしている藁科……オレには、シマッタという表情をしているように思えて……。


「気にしないで下さい。…………あの、私、そろそろ帰ります。荷物手伝ってくれて、ありがとうございました」


「あっ、ああ分かった。オレも仕事溜まってたんだった」


長く留まるのは得策じゃない。真っ先に消えてしまいたいが、走ったりなんかしたら、きっといけない。だから、いつもより少し急いで出入り口へ向かった。




なのに、


「っ、待って下さいっ!!」


あともう少しでこの場をやり過ごすことが出来たのに、オレの腕は藁科に捕まった。