瞳が映す景色


小さな個室内。気が緩んだ途端に涙が倍になる。 これでも、我慢してたんだ。


拭ったりすると目が腫れるからね――白鳥さんの助言通り、流れてくるものはそのままに、やがて治まるのを待った。そっと渡してくれたおしぼりで目元を冷やす。


感情を全くコントロール出来ないわけじゃない。


けど……急に、涙が溢れてきたんだ。


友人たちにしか伝わらないようにと、小さな声で囁いた秘密。藁科は阿呆だ。好きな相手の声くらい、耳をすませば容易なこと。


淡い空色の秘密。ハッキリと、聞こえてしまったんだ。


――去年のオレの誕生日。オレが勝手に選んだ淡い空色のワンピースを着た後のはにかんだ表情。 何度も繰り返された『変じゃないですか?』の問い。


おこがましいだろう。オレじゃないかもしれない。


けど、重ねてしまった。


また涙が一筋流れる。


オレは、こんなやつだっただろうか。誰かを想って愛しくなって、こんなに心揺さぶられる人間だっただろうか。こんなに……。


全部、藁科のせいだ。


――それは、なんて幸福なこと。