瞳が映す景色


トレードマークだった頭のてっぺんで結われたポニーテールの黒髪は下ろされ、そして、緩く巻かれていた。ふわりふわりと、動く度にそれが背中で揺れる。初めて見たまともな私服は、コートと同じ色合いのスカートと、淡い空色のニット――いつかの記憶が蘇る、空の色だった。


「女子の中で、今回は藁科が一番化けたね。あっ、化けたっていうのは怒られちゃう。華やかさが、増した?」


答えなかった。けど、薄く化粧をしているかもしれないその顔は、密かに咲いていた魅力みたいなものを前面に押し出してしまったようで。


なんて――秘密の花園だろう。


「やっぱり、ギャップって威力あるよね。独り身の青春男子がざわついてる」


「……白鳥さんも、混ざってきていいですよ。行きたそうだ」


「そんなぁ。ゲンちゃん置いてくなんて僕出来ないっ」




結局、オレはともかく、白鳥さんもその場に留まった。


――曖昧に、会話をしていたつもりはない。けれど、耳にはしっかりと、一言も聞き漏らさずに入ってくる、藁科の声。


夕暮れ時に似合うと感じたその声。それはそうなんだろうけど、結局、何処でも心地いいんだ。オレがあの声を、藁科を好きなんだから。


こんな初歩的なことを、こんな未練がましい今、気付くなんて……。