瞳が映す景色


「――もうすぐ、文化祭ですね。楽しみですっ」


「あっ、ああそうだな。でもその前にテストがあるぞ」


「問題ありません」


成績の悪くない藁科は胸を張る。あまりにも臆することなく言うもんだから、 ちょっと楽しくなって笑ってしまった。


それなりにそつなくこなす藁科は、だが理解力が乏しいのだと、前に図書室で唸っていたところに遭遇した覚えがある。


藁科も、つられて笑う。


「片山先生は、どんな高校生だったんですか?」


窓際の手すりにもたれ、外の景色とオレの方を交互に見ながら、藁科が唐突に尋ねてきた。


「どんなって……目立ちもせず、落ちこぼれずに安穏と。それなりにやってたな」


「部活は?」


「帰宅部。そりゃあ熱心に取り組んでたぞ」


「ふふっ。なんで、先生になったんですか?」


藁科の質問は止まらない。


『ずっと憧れていて』――そう言えば良かったん だろうが、純粋な瞳を前に、少し、嘘を躊躇した。