嗅覚を働かせ原因を辿ってみると、たった今オレたちが運んできた段ボール箱で。
ガムテープの封印を外し、藁科が中から林檎を取り出した。
「白鳥先生から頂きました。――片山先生もどうぞ」
ふたつあったひとつを差し出される。
……オレは、林檎から顔を背け……
「……林檎、苦手でさ。藁科ひとりでどうぞ。そして、すくすくと大きくおなりなさい」
「…………、」
じゃあ――そう言って、藁科は何故か泣き笑ったような顔で、林檎をふたつ、カバンに隠した。
すぐに取り繕う言葉が見つからずにいると、藁科の携帯電話が鳴り、その着信音に助けられる。誰でも一度は耳にしたことのある、有名なクラシックの曲だった。
「この曲だけ大好きなんです。クラシック鑑賞が趣味でもないから、他はさっぱりですけど」
おかしな言い訳をしながらオレにわざわざ断りを入れ、藁科は通話を選択した。
「もしもし。ごめん、美月ちゃん。今日は私パスで」
そして、すぐに終了。
「予定、大丈夫だったのか?」
「はい。文化祭のことですけど、私の今日の重大任務はこっちでしたから」
手の甲に付いた墨の跡を指差し、藁科は満足げに頷いた。



