「速斗ー!

そっち運び終わったら、先に帰ってて良いぞー!」


「わかったー!」

「お母さんの手伝いでもしてあげなさい。」

「はーい。」


池内速斗は畑から出て、自宅の方へ歩いた。


彼の家は農家だ。


夏期休暇の今、彼は連日両親と共に畑へ出ている。


同級生にも農家の家に生まれた者はいたが、彼ほど熱心に家業に携わっている者はいなかった。



自宅までのほんの10分の道のりも、速斗には楽しく思えた。






北西部に連なる山々の麓に彼の住む集落はある。

近年過疎化が叫ばれる、農村集落であるが、この町は比較的深刻ではない。


それでも若い人達は都市へ出て行くので、速斗と近い世代の人はあまりいない。


速斗はそれでもこの町が好きだった。