「ちょっと待ってよ、これ…!」
丘の上からはぼんやりと光っている事しか確認できず、あの建物が何なのかまでは分からなかった。
目の前まで来てみて、それを見上げながら目を丸くして体を硬直させる。
「どうして…お城が」
歩いている途中にも思ったが、この街の建物殆どがレンガ造りになっている。日本の雰囲気とは程遠い。
それにこのお城。頭が混乱して何が何だか分からなくなりそうだ。
悪い夢なら、さっさと覚めて欲しい。
「おいっ!!其処で何をしている」
いきなり男の声に怒鳴られ、ビクッと肩が跳ねた。
やっと人に会えたかと思えば怒鳴られ、本当に散々だ。今日は厄日か…?
「私は、ただ迷ってて…」
「迷った?嘘を付くな!!奇妙な格好をして…一体何者だ!」
奇妙って…普通に、私服なのだが…。
返答に困って黙っていると、私の様子に男は眉を寄せる。
「密偵か何かか…?王の前に突き出してやる」
そう言うと彼は私の腕を掴み、半ば引き摺るように城の中へと入っていった。
「ちょっ!!待って!!」
振り解こうにも、力の差があり過ぎて不可能だ。よく見るとこの人は白い軍服を着ていて、騎士の様な格好をしている。まさに、お城によく居る類の。
仕方なく腕を引かれるまま、私は彼に着いていった。
大きな扉の前まで来ると、男は数回ノックをする。
「ん?…入りなさい」
「失礼いたします」
扉を開けると、彼はペコリと一度頭を下げて中へと入る。また腕を引かれ、私も共に部屋へ入った。
すごい部屋だ…。
まさに絢爛豪華という言葉がぴったりだ。
「お忙しい中申し訳御座いません、怪しいものが城の周りをうろついて居た様でしたので…」
「何?」
王と呼ばれた男性は、分厚い書類に向けていた顔をこちらに向けた。
「っ!?この子は…!」
「ぇ…?」
王と呼ばれていた男は、私を見るなり驚いた表情を見せた。
そんなに珍しいのかな?私…。
「私は彼女に話がある、もう下がって良いぞ」
彼は私から視線を離さず、騎士に言った。
不審な人物だけを残す事に躊躇っているのだろう、しかし…とその場を動こうとしない。
「危険な人物と二人きり…と言うのは…」
「私は心配いらん、何かあれば直ぐに呼ぶ」
そう言って退室を促すように王は騎士を見つめた。
「分かりました…失礼致します。」
そう言って深く頭を下げて、彼は部屋を出て行った。