破滅の女神 リメイク版


ピピピっという電子音で私は目を覚ました。
目覚し時計を止め、ベッドから起き上がる。

サラリと肩に落ちる髪は元通りの赤色だ。また今日から元の日常に戻るんだ…。

身支度を整えていると頭を過るのはミーヤの顔…。朝起こしてくれて、何気なく交わす会話はとても楽しかった。

「はは…駄目だなぁ。」

軽く頭を振り、パチンと頬を叩く。まだ満月の日まで遠いのに今からこんなじゃいけないよね。

元々一人で居るのが当たり前だったんだし、別にどうって事無い。大丈夫だ。


食欲はあまり無いため適当に済ませて学校に向かった。

「行ってきます」

当然返事など返ってくる筈も無く、その寂しさにほんの少しだけ胸が痛んだ。







同じ制服を着た生徒達がおはよう、と挨拶を交わし合う。自分から挨拶をする事は…はっきり言って無い。

そもそも人と目を合わせる事も苦手だ。あぁ…何だろう、私完璧なコミュ障って奴に分類されてしまうんじゃないだろうか。

向こうの世界で普通に人と話が出来た自分は奇跡としか言えない気がする。…いや、皆凄く優しかったんだ。
誰も私の見た目をからかったりしなかった。普通に接してくれた事が凄く嬉しかったんだ。


この赤い髪を見て奇異の目を向けられる事には慣れたが、やはり良い気はしない。少しでも目立ちたくなくて大人しくしていたら、当然人との関わりも減るだろう。
まぁ、自業自得なんだけど…。


高校になった今は自分が幼い時より悪戯に馬鹿にされる事は少なくはなった。
殆ど小さい時の記憶が無いからはっきり言えないが。小学校の高学年…くらいからだろうか。それ以前の記憶は辿っても思い出せない。

小学も今も、人の視線は…相変わらずだが。


自分のクラスに入り、席に着く。私の席は一番後ろだ。かなり有難いとしみじみ思う。

机に鞄を置くと、ふと隣の子と目が合ってしまった。彼女は…確か…そう、凛ちゃんだったかな。

「えっと…おはよう」

咄嗟にそう口にすると、彼女は少しだけ驚いた様に目を丸くした。

「おはよう!挨拶されると思わなくてビックリしちゃった」

そう言って人当たりが良さそうな笑みを向けてくれる。普段目が合っても私は何も言わずに視線を逸らしてしまうから、かなり感じが悪い子だと思われていただろうな。

「あ…うん、ごめんね」

「あっ!違うの、悪い意味で言ったんじゃないんだよ!ただ嬉しかっただけだから」

「ぇ…そっか、良かった…」

少しほっとして強ばっていた表情を緩める。隣の席の子なのに、こんなに話した事ないかも…。

「リリスちゃん、笑うと可愛いね!!いつもクールな子だと思ってたから。今日はよく喋ってくれるし、どうしたの??」

なんか珍しいね!!
そう明るく話をしてくれると、朝感じた寂しさが少し紛れる。何だかミーヤに似てる気がするな…。明るい所とか特に。

そう思って少し笑みを浮かべた。

「ちょっと…ね。ごめんね、私無愛想だから…」

「そんな事無いよ!!」

話出来て嬉しいから!!そう笑いながら言われると、つられて私も笑顔になる。なんだ…ちゃんと学校にもこんな子が居たんだ…。

今まで勿体無い時間を過ごしちゃったな。

HRが終わって授業の合間や休憩時間など、彼女は頻繁に話しかけてくれた。
彼女曰く、意外と話しやすくて楽しいそうだ。そう思って貰えて私も何より。

お昼ご飯にも、彼女は他の友達と一緒に私も誘ってくれた。
中々殆ど話さない人達と過ごすのは、個人的にハードルが高いのだけれど…。凛ちゃん以外の皆もいい人たちばかりで緊張する必要も無かった。

「リリスちゃん、急に絡みやすくなっちゃってどうしたの?」

「はっきり言って、関わりづらそうな感じだったよね〜。でも意外と明るいし、もっと前から話したかったな」

凛ちゃんと普段一緒に居るこの二人も、普段話さない私の様子に驚いてた。

別の世界で何日か過ごしたから…なんて当然言える筈もなく。あはは…と曖昧に笑って誤魔化すしか無い。
こっちの世界でこんなに楽しい時間が過ごせるとは思はなかった。

嬉しいな…。

「リリスちゃん、凄い可愛い子だしさ?髪とか目も綺麗な色してるし。気になってたんだよね」

凛ちゃんがジュース片手に、じっと見つめてくる。正直お世辞は勘弁してもらいたい。言われ慣れてない事に無駄に照れてしまう。

「お世辞はいいよ…。あまりこの色の髪とかも好きじゃないし…」

苦笑しながら言うと、折角綺麗なのに?と首を傾げながら言われてしまい反応に困った。

綺麗と言ってくれる人も居て嬉しいが、気持ち悪く思う人も少なからずいるわけで。それは私が一番よく分かっている。

あまり調子に乗らない方がいい。それは忘れないでおこう。