「……う、ううん」
顔をしかめて、唸り始めた彼女。
「そろそろ起きそうだね、れい子」
俺は、れい子を移動させるために彼女の手を、
「う、ん……あったま痛、あれ?」
手を繋ぐ前に、彼女が起きた。
うーん、面倒な事になった。目が覚めてしまっては、彼女と手を繋ぐ理由が見つからない。
「あ、文場さんだよね。トラックに跳ねられてたけど大丈夫?」
「え、あ、そ……そういえば!」
ガバッと起き上がり、周囲をキョロキョロと見渡した。
「え、あたしトラックに、え?」
「トラックは逃げたよ」
「ひき逃げじゃねぇか!!」
うん、元気そう。
「っていうか、頭痛い!うわっ、たんこぶ!!いったーー!お尻も痛い!」
うん、元気元気。
あ、そうだ。俺が彼女を起こしたらいいんだ。なんかドラマで見た。転んだ女性に「さあ、この手に掴まって」とか言うやつ。うん、それでいこう。
「救急車も呼んどいたよ。さあ、この手に掴まって」
「あ、ありがとうございます」
『守ってやった、感謝しな』
れい子は相変わらずだ。
差し出した俺の手と彼女の手が重なる直前に、合っていた視線がズレた。
その視線の先には、
「え、誰」
『え』
もうすぐ俺に移動してくるはずだった、れい子。
「す、透けてません?」
『嘘でしょ』
あらら、これは予想外。