セレーネが頼もうとしていたのは、洗濯の手伝い。

 何でも洗濯したての服やシーツを入れていた籠に躓き、中身をぶちまけてしまったらしいが、カイル曰く「大きな籠に、どうして躓く」であった。

 ドジな一面を有するセレーネであったが、自分でやってしまったことは、自分で責任を取らないといけない。

 それに洗濯はセレーネの仕事なので、カイルに頼むことではなかった。

 しかし、懸命に食い下がる。

「いいじゃないの」

「僕だって、仕事があるんだ」

「どうせ、簡単な仕事でしょ」

「ふーん、忘れたんだ」

 頬を膨らませながら睨み付けてくるセレーネに、カイルは嘲笑う。

 そして、数日前に起こった出来事について語って聞かせた。

 その瞬間、セレーネの顔面から血の気が引いていった。

 その出来事の首謀者は、何とセレーネ。

 どうすればこのようなことができるのかと頭を悩ませる内容であり、二人が身を置く教会の神父ザレイは溜息をつき、セレーネに小言を言った。

 温厚で大らか人物として、多くの者から尊敬と信頼が篤いザレイ。

 その人物が小言を言うのだから、聖職者として有るまじき行動を取ったことは間違いない。

 そしてその事件というのは、ザレイの寝室のカーテンを破ってしまったという、とても情けない出来事であった。

「あ、あれは……」

「あれは?」

「仕方がなかったのよ」

「仕方が……なかったのかな? あれは、絶対にセレーネが悪い。だって、モップを振り回していたじゃないか」

 鋭い指摘に、何も言えなくなってしまう。あの時、確かにセレーネはモップを振り回していた。

 何もザレイの部屋でそのようなことを行わないでいいと思われるが、これには複雑な……というより、物凄く個人的な事柄が関係していた。

 だが、これもまた言い訳に過ぎない。

「ゴキブリだっけ?」

「そう。あの怪しい光沢を放った、この世の害虫。何で、この世界にあのような汚らしい生き物が存在するの」

「僕に聞かれても、わからないよ」

 創造主によって生み出されたものを質問されたところで、正しい答えを述べることはできない。

 ただ苦笑いを浮かべながら、ゴキブリに対して嫌悪感を露にしているセレーネを見つめていた。