「おっ! はじまった」
小さくなったニンニクを口の中に放り込むと、真剣な目つきで試験内容を観察する。
何だかんだと言いながら、カイトはセレーネのことが心配であった。これも、長年の付き合いが関係している。
「かなり緊張をしているな。まあ、これで少しは僕の有難みも……って、おい! またかよ」
試験開始前に、セレーネに説教が行われる。どうやら、廊下での出来事を怒られているようだ。
あれは自業自得であり、責任はセレーネにある。怒られて少しは静かになれが良いのだが、期待はしない方がいい。
何かをする度に怒られているようだが、全く進歩は見られない。寧ろ、状況が悪化しているように思える。
「先が思いやられるよ」
セレーネが目標としているカイトの母親は、試験は無論一回で合格をしている。
実技の成績も良く、セレーネ正反対の性格の持ち主。そのような人物を目標としているのなら、まずは性格面を治すべきとカイトは考える。
しかしその指摘を、彼女が聞いてくれることはない。
「で、どんなことをやるのかな?」
セレーネは、奉仕活動と言っていた。だとすると、街の人を相手に何かをするのだろう。見れば、数人の子供がいた。
(なるほど、子供相手か)
内容がわかったが、心配することも増えた。子供は無邪気で気分屋で、我儘を言うものならセレーネは間違いなく切れる。
そして頭を叩いたりでもしたら、試験どころではなくなってしまう。
「これはマズイな」
最悪な試験内容に、この瞬間から不合格を確信した。子供相手に、セレーネが切れないはずがない。
一方セレーネも子供を目の前に、動揺を隠せないでいた。
「さて、どこまで耐えられるかな」
完全に、他人事であった。たまには、困っている姿を見るのも悪くはない。
いつもいつも無理難題を押し付けられているので、少しは苦労をして目的を達成してもらおうとカイルは思う。
「あっ! ニンニクが」
おつまみに持ってきたニンニクを、全部食べてしまったようだ。
仕方ないので木から下りると、急いで厨房に向かう。その時、年老いたシスターの怒鳴り声響き渡る。
どうやら、やってしまったようだ。
試験が開始され十分程度。