セレーネの額に、汗が滲む。
毎度毎度、同じことで注意されるセレーネ。カイトに助けてもらう作戦は、この瞬間無残にも崩れ去った。
これも“神様は見ている”というところだろう。
「まあ、良いでしょう。こんなところで説教をするつもりもありません。試験を受けるのでしょ? 部屋に入りなさい」
「は、はい!」
「それと、部屋には一人で入ること。人の助けは無用です」
「わ、わかりました……」
流石、年の功。
セレーネの行動は、お見通しのようだ。
それだけ言い残すと、試験官は試験会場である部屋に入っていく。先に言葉を発したのはセレーネ。
大きな溜息と共に、肩を落とす。
「ど、どうしてこうなるの」
「多分、日頃の行いだよ」
「日頃の行いって、私は何もしていないわよ」
「いや、しているから注意されたんだと思う」
「一人じゃ無理」
「仕方ないよ。じゃあ、僕は此処までだね。これから先は一人で頑張ろう。吉報を期待しているよ」
爽やかな笑顔を残し、カイトは立ち去ってしまう。その後姿を寂しく眺めるセレーネだったが、どうすることもできない。
そんなどうしようもならない状況に、頭を抱え叫んでしまう。
その不可解な行動に、同じように試験を受けに来た見習いシスターの視線が、一斉に集まる。
それはまるで、珍獣を見るような視線であった。そして、コソコソと小声でセレーネの話をはじめる。
聞こえてきた台詞の中に「あれで見習い」とか「おかしな人」など、かなり屈辱的な内容が含まれていた。
その声にセレーネは何事もなかったかのように振舞いつつ、試験会場に入って行く。
その頃、セレーネと別れたカイトは試験会場が見える木の上にいた。
好物であるニンニクを齧りつつ、開始されるのを待つ。誰もカイトの姿には気付いていない。
気配を消すのは、お手の物。
「やっぱり、焼きすぎたか」
狐色に染まったニンニクを眺めつつ、調理を失敗したことに嘆く。だが食べられないわけでもないので、全部食べることにした。
焼いたことにより甘味が増したニンニク。それを美味そうに食べるカイトは、もはや吸血鬼ではなかった。


