シスター奮闘記


「ねえ、やっぱり血を吸うの?」

「血! あんな不味い液体吸えないよ。錆びた鉄の味がするし」

「一回、啜ったんだ」

「ものの試し。でも、それ一回だよ。今は、トマトジュースの方が美味い。あれに少し塩味をプラスするとなお美味い」

 表面上は、変わった吸血鬼。

 一般的なイメージとしては凶暴で残忍という吸血鬼であるが、カイトもその父親も温厚。

 イメージはあくまでもイメージであり、全てが正しいとは限らない。

「お礼に、トマトジュース奢るから」

「それだけ?」

「わかったわよ、食事つき」

「それならいいよ」

「有難う! 我が人生の野望の第一歩よ」

「野望?」

 シスターの口から発せられたとは思えないかなり衝撃的な単語に、カイトは聞き直すがセレーネは顔を逸らし口を押さえる。

 どうやら本当に“野望”があるらしい。セレーネの野望の正体が気に掛かるがどうせ碌でもないことだろうと、カイトは心の中で溜息を付いた。

「さあ、行くわよ」

「庇うのにも限界があるから」

「任せなさい」

「それが心配なんだよ。毎回それで失敗しているんだから。少しぐらいは緊張した方がいいよ」

 と言った所で、聞いてくれる相手でもない。

 セレーネが、正式なシスターになれるのはいつか――それは、今から行われる実技試験にかかっている。

 過去、七回も落ちた経歴を持つ彼女。

 本来なら一回落ちた程度で全員が受かるので、七回というのは歴代最高。色々な意味で有名で面接の常連。

 中には後輩が面接の準備をしているなど、恥ずかしいこともあった。

「で、何やるの?」

「神に仕える者として、奉仕活動よ」

「似合わない言葉だね」

「自分でもそう思っているから、あえて反論はしないわ」

 自分の性格は自分が一番よく知っているらしく、珍しく反論はなし。

 一方カイトは、セレーネが奉仕活動を出来るのか心配。

 小さい子供でも平気で切れてしまう。これで見習いシスターなのだから、世の中間違っている。