「おばさまは、おばさまよ」
「そうなんだ。あれ? セレーネは母さんのようなシスターに、なりたいと言っていたよね」
「う、煩い」
「乱暴な言葉遣い、また落ちるよ」
「わかっているわよ」
「どうだか」
少年は寝癖がついた髪を梳かすと、大欠伸をする。そして身体を解す運動をすると、閉めていたカーテンを開いた。
「うーん。お日様最高!」
「ねえ、カイトって本当に吸血鬼?」
「勿論! 正真正銘の吸血鬼のハーフだよ」
カイトと呼ばれた少年の正体は、吸血鬼のハーフ。身体に流れる血の半分が吸血鬼で、もう半分が人間。
元来吸血鬼は日差しに浴びるのが苦手なのだが、人間の血を濃く引いた為、日差しの中でも平気で過ごせる。
そしてお日様万歳と言って日光浴をする、変わった体質を持つ吸血鬼だ。
また、一般的に知られているニンニクも大丈夫。
寧ろ、好物だったりする。時々ニンニクを買い溜めしてはガーリックトーストやらガーリックライスなど、器用に調理をしている。
その他に聖水も大丈夫なので、教会で平気に働いている。
比率で言えば、6対4。
前者が人間の血で、後者が吸血鬼としての血。外見上は人間なのだが、秘められた力は吸血鬼と同じ。
“教会に吸血鬼が”と思われるが、この世界の住民は他の種族と交流が深い。たとえそれが吸血鬼であろうと魔物であろうと、お構いなし。
人間との関係は、至って良好。セレーネとカイトの関係を見れば、それは明らかだ。
それに、カイトの両親のように他の種族同士の結婚も盛んだったりする。
「いまだに、信じられない」
「別に、セレーネに信じてもらわなくてもいいよ」
「それって差別よ」
「信じない方が悪いって」
母親がシスターとなれば、父親が吸血鬼。なんでも、父親の一目惚れだったらしい。
一度真相を聞いたことがあるが、あまりのラブラブぶりに途中で嫌気が差し最後まで聞いたことがない。
簡単に説明すると“母親の血を吸いに行こうとしたら、逆に惚れてしまった”ということらしい。
それを聞いたカイトは、その熱々っぷりに馬鹿馬鹿しくなり溜息しか洩れなかった。