今までのやり取りを遠巻きで聞いていたザレイは、セレーネの行いを嘆き悲しむ。そして、本気で思いはじめた。
彼女の内面を変える教育を、行わなければいけないと――しかし、それが上手く行えるかは、まったくの未知数。
何故なら――
「きゃあああああ!」
次の瞬間、セレーネの悲鳴が建物中に響き渡った。
どうやら食器類を落としてしまったのだろう、悲鳴の前に陶器が砕ける音が聞こえた。今週に入って、何度目か。
食器類は、タダではない。
これにより、今月の赤字は決定した。
ボキ。
今度は、別の場所で変わった音が聞こえた。何とこれは、温厚で通っているザレイがペンを折った音であった。
どうやら、かなりの怒りを溜め込んでいるのだろう。
額に、血管が浮き出ていた。
無論、このような姿を見た者はいない。
だからこそ、温厚なイメージで通っている。しかし、本来は起伏の激しい感情を持っている。
特に、手に余る人間には厳しかった。
それは、セレーネのことである。
何から、はじめればいいか。
ザレイにしてみれば孫のカイルのように何でもできるシスターになってほしいと考えているが、彼女は不器用。掃除・洗濯・食事の支度もままならない。
だが、改善しなければ命に関わる。
だからこそ、ことは早い方がいい。
何事も、善は急げ。
ザレイは椅子から腰を上げると、セレーネのもとへ向かう。そして、最強と名がつく教育を開始した。
◇◆◇◆◇◆
その後のセレーネは、残念ながら進歩は見られない。それどころか、以前より酷さが増し、カイルに迷惑を掛けていた。
そして今日もまた、例の叫び声が響き渡る。
一方ザレイは、セレーネの学習能力の低さに、見放す決意をした。
帳簿の赤文字はザレイの悩みの種になっていたが、それ以外は相変わらずの風景が続く。何だかんだで、今日も平和な一日がはじまった。


