カイルは治療に使用する道具が入っている箱を持ってくると、慣れた手付きで血で汚れた手を綺麗に拭く。
そして傷口に脱脂綿を当てると、その上から包帯を巻き解けないように縛った。
しかし、手当てはこれで終わらない。
日頃の不注意を警告するかのように、傷口を叩いた。
「な、何するのよ」
「これで、学習するかと思って」
「するわけないでしょ」
「そうなんだ」
感情の篭っていない声音でさらっと返すと、再び傷口を叩く。
二回目のそれは、容赦のない攻撃。それにより血が滲み出てきたが、彼女に対して同情などしない。
全て、セレーネが悪い。
「最近、厳しいわよ」
「そうかな? セレーネの将来を心配しているんだけどね。だって、シスターに見えないから」
「そ、そうかしら」
「そうだね。だって――」
何かを言いかけていたが、途中で言葉を止めてしまう。いくら図太い神経を持っているとはいえ、言って良いことと悪いことがある。
それはカイルなりの優しさであったが、セレーネは気に入らない。
すると、シスターとは思えない暴挙に出た。何と、持っていた包丁を振り回しはじめたのだ。
「何よ! そんなに、私のことが嫌いなの」
「いや、違うよ」
「なら、言わないで」
包丁を感情のままに振り回していく。その為、加減というものはできない。
サク。
刹那、何かに包丁が突き刺さった。その音にセレーネは我に返ると、恐る恐る包丁を見つめた。
「殺人事件だ」
「ご、御免なさい」
「シスターが人殺しをしたら、洒落にならないよ」
肩を竦めつつ見つめたのは、包丁が深々と縦に刺さったキャベツであった。
そう先程の音は、キャベツに包丁が刺さった音。
何とカイルは包丁が向けられた寸前にキャベツを掴み、それを盾にして自身を守った。
もし判断が遅れていたら、セレーネはカイルを殺していた。


