「行ってきなさい」
「ご、御免」
「これは、仕方がないことだ」
セレーネの性格に関しては、ザレイは諦めてしまっているようだ。
もし真剣に相手のことを思っているのなら、それなりの対処を取る。しかし、それさえ行わない。
つまり、見捨てた。
慌てて部屋から出て行く孫の姿に、ザレイは肩を竦めてしまう。
カイルが来てくれたことは嬉しいが、その反面このような仕事を任せてしまっていることに、罪悪感を覚えてしまう。
まさか、セレーネがこのような暴挙に出るとは――
誰も、予想できない。
いや、予想できたとしたらカイルが来るのを拒んでいた。
カイルに出会う前のセレーネは、至って普通――とはいかないのが、シスターとしては一応真面目に仕事をしていたという。
だが、実際は悲しいもの。女性とは思えない仕草に、乱暴な言葉遣い。
男っぽい立ち振る舞いにより、物を壊す。
これがこの先も続くと思うと、嘆き悲しむしかない。ザレイは、日々の平和を神に祈るしかなかった。
◇◆◇◆◇◆
その日の夕方、カイルは夕食の支度をしていた。
祖父の希望通り、味付けは薄めに。
今回は、セレーネからの文句はない。どうやら何を言っても無理だと判断したのだろうか、黙々と野菜の皮むきをしていた。
「集中しないと、指を切るよ」
「わかっているわよ」
言葉を荒げた瞬間、指を切ってしまう。
反射的に切った指を口に含むと、何とも表現しがたい味が口の中に広がった。
今の行為で三回目であったが、カイルの態度は冷静であった。
それは、いつもの光景。
セレーネは一回の料理の間に、必ずといっていいほど数回指を切るからだ。
「手当て」
「いいわよ」
「仕事にならないから、指を出す」
素っ気無い態度にセレーネは頬を膨らませるも、素直に手を出しだす。今回切ってしまった箇所は、中指。
それほど大きな傷ではなかったが、どうやら深く切ってしまったのだろう。血が溢れ出ていた。


