しかし、健康を考えれば薄味でちょうどいい。
いや、それ以前に、セレーネの味付けが悪かった。
はじめて彼女の料理を食べた時、カイルは思わず吐き出してしまった過去を持つ。
それから料理は、カイルが行うことにした。
あの味は、今でも忘れられない。
あの料理は、確実に相手を昇天させることができる。もし普通に食べられる人が存在するとしたら、かなりの味音痴だ。
「じいちゃんは、平気だったんだ」
「少し食べて、残していた」
「だから、じいちゃん前より痩せていたんだ」
衝撃的な事実に、唖然となってしまう。今まで特にそのようなことは話してくれなかったが、かなり苦労していたようだ。
ふと、カイルはあることを思い出す。
それは、はじめて料理を作った日の話だ。
あの日、ザレイは残さず夕食を平らげた。
それを見たセレーネが、不満そうな表情をしていたのを覚えている。
当時は、出された料理が気に入らないと思っていたが、実は違った。
自分が作った料理は大量に残すというのに、カイルが作った料理は全て平らげた。
これが、気に入らなかったらしい。そして次の日から目の敵とし、様々な無理難題を吹っかけてきた。
「セレーネは、あれで良いところがある」
「そうかな」
「そういうものだ」
その時、ザレイの言葉を裏切るような悲鳴がこだました。
どうやらまた何かやらかしたのだろう、悲鳴に続きいつもの名前が呼ばれた。
その内容にカイルとザレイは、溜息をつくしかない。
「撤回だな」
「僕もそう思う」
「仕事が増えたな」
「大丈夫。慣れているから」
「そうか」
だが、それ以上の言葉は続かなかった。
まだ昼前だというのに、二回目の呼び出し。この調子だと、一日の内に何回呼ばれることになるのか。
考えただけで、頭が痛くなってしまう。
カイルは、行くべきかどうか迷う。だが、選択の余地はない。それは、何度も名前を呼ばれていたからだ。
こうなると、行かなければ治まらない。
カイルとセレーネは、同じ年齢。
だが、それは外見年齢であって、中身――精神年齢が一致することは、絶対になかった。


