シスター奮闘記


 それにより、敬語を使っていたことに気付く。

 ザレイは、リディアの義父だ。

 そうなれば、必然的にカイルは孫の立場になる。そのような関係だというのに、交わされる言葉は敬語。

 今まで何も言わなかったが、やはり共に暮らすのだから、そのようなものは必要ない。

 それどころか、使えば使うほど互いの距離が広がってしまう。カイルが教会に来て、二週間が経過した。

 今までは滅多に会わない祖父に緊張し敬語を使っていたが、もはや必要ない。

「すみません」

「何かな?」

「あっ! 御免なさい」

「そう、それでいい」

 敬語を使わなくなったことに、ザレイは嬉しそうに微笑む。

 その笑顔に釣られカイルも笑みを浮かべると、窓から外を見つめる。遠くに広がる、美しい町並み。

 カイルが暮らしていた場所とは違い、とても賑やかで華が感じられる。

 そして何より、人々の多さに驚いた。

「慣れたかな?」

「二週間も経てば、それなりに」

「確か、以前の場所は――」

「父さんが吸血鬼だから、その種族が集まる場所。結構、寂しい場所だった。友達も少なかったし」

「此処は、賑やかだな」

「セレーネは、特に煩い」

 聞かされた本音に、ザレイは肩を竦めていた。まさにそれは、セレーネを表すのに適切な言葉。

 時折それは鬱陶しく感じることもあったというが、一人暮らしをしているよりはいいと言う。そして今は、可愛い孫が共に暮らしている。

 これほど、嬉しいことはなかった。

「好きな食べ物って、あるかな?」

「急に、どうした」

「参考にしようかと」

「そうだな。肉料理より、魚料理が好きだ。どうも歳の影響か、濃い味付けは舌に合わない」

「わかった。有難う」

「これから、期待している」

 今まで適当に作っていた料理であったが、それはザレイの好みに合っていた。

 カイル自身もまた、濃い味付けを好まない。

 よって必然的に料理は薄味となってしまい、セレーネの不評を買う。