ザレイにとって娘の心遣いは、とても有難いものであった。
その頃、セレーネがシスターとして勤めていたが、残念ながら有難迷惑な存在であり、全くといっていいほど役に立ってはいなかった。
料理を作れば、鍋を焦がす。味付けは一定の範囲を逸脱し、食べられるものではない。
何より裁縫は苦手で、針穴に糸を通すのに時間が掛かる。
そして縫い物をすれば、直進して進めず大きく曲がる。
また縫い目は粗く、いつもザレイが繕い直し、二度手間となってしまう。
それなら掃除と期待してみようものなら、見事に期待を裏切ってくれる。
その良い例が、ゴキブリ退治事件。
シスターがモップを振り回し、力任せにゴキブリを潰した。
そしてその後の後始末は、カイルの仕事。
「母さんが心配していた訳が、わかりました」
「一度、愚痴を言ってしまったからな」
「その内容ですが、聞きました」
「恥ずかしいことだが、仕方がない。彼女は彼女なりに頑張っているようだが、あれでは……」
その言葉に続き、溜息がつかれた。
カイルが来る前は、かなり苦労していたのだろう。柔和な表情の裏に、疲労が滲み出ていた。よってカイルの存在は、天の助け。
いや、救いの象徴だ。
お陰で、今は安定した生活を送っている。
料理は、カイルのオリジナル。
ザレイの年齢を考えて薄味であり、何より身体を考えている。残念ながらセレーネは、そのような心配りはできない。
もしカイルが来なければ、ザレイは早死にしていたに違いない。
「セレーネは、修行が足りません」
「学習すれば、直ると思うか?」
「難しい問題ですね」
それの続き、二人は苦笑を浮かべた。セレーネに学習能力――残念ながら、期待はできない。
それ以前に、学ぶ意欲があるのか。カイルのお陰で、最近は気楽な生活を送っている。
本当なら、セレーネが行わなければならない仕事。シスターは、神父を支えるべき存在だ。
周囲はそのように思っているが、ザレイはカイルを頼りにしている。
孫という立場もあるが、安心して物事を任せられるのは大きい。このように、破れたカーテンを綺麗に繕っているのだから。
「ああ、ひとつ頼みがある」
急に真剣な表情へと変わったザレイに、カイルは首を傾げてしまう。
するとザレイは、今まで感じていたことを語った。
それは、老人と孫の関係について。つまり、余所余所しいのを好まないという。


