確かに、ゴキブリを苦手とする女性は多い。

 カイルの母親リディアも同じ反応を見せるのだから、この害虫の存在は相当のものだ。だがモップを振り回すということは、あり得ない。

 このことに関しては、セレーネが完全に悪い。

 いくら慌てていたとはいえ、別の対応方法があっただろう。

 つまり日頃の行いが影響し、乱暴で攻撃的な一面が出てしまったということだ。

「全て、ゴキブリが悪いのよ」

「いや、半分はセレーネが悪い」

「違うわ! 全部よ」

「まあ、落ち着こうよ。セレーネは、汚してしまった物を洗う。僕は責任を持って、カーテンの穴を塞ぐから」

 それが最善の方法であったが、セレーネは不満そうな表情を浮かべる。

 彼女にしてみたら何がなんでも手伝ってほしかったが、破いたカーテンはそう簡単に直せるものではなかった。

 実のところ、セレーネは裁縫が苦手であった。その為、無理を言ってカイルに直してもらっている。

 つまり、我儘を言える立場ではない。だがいつもの調子で、我儘を突き通そうとしていた。

「そこまで言うのなら、後は任せるよ」

「そ、それは……」

「いいよね?」

「わかったわよ。自分で、洗濯をするわ」

「よろしい。なら、頑張ってね」

 満面の笑みから発せられるどす黒いオーラに、とうとうセレーネが折れた。

 渋々ながら自分で後始末をすることを認めると、汚れてしまった洗濯物を拾っていく。

 そして、溜息をついた。

 しかし、同情心など沸かない。

 そもそも籠に躓かなければ、このようなことにならなかった。

 要は、注意力が足りない。

 そして何も考えずに突き進むので、見事に自爆をしてしまう。

 どの行動を取っても、シスターとは思えない暴れっぷり。これで〈聖職者〉として生活を送っているのだから、世の中を舐めているとしかいえない。

 いつか、シスターの称号を剥奪されてしまうだろう。

 カイルは個人的に、それを望んでいた。だがそれは、誰にも言わない。ただ心の中に仕舞い込み、怒りを抑える。

 長い溜息をつくと、踵を返しカーテンの修繕を行っていた自室へと戻ることにした。

 そしてせっせと破かれた箇所を縫い合わせていくのだが、カーテンの生地は厚い。思った以上に、苦労の連続であった。