廊下に足音が響く。ドシドシと、周囲を揺らし。その音は廊下の片隅に存在する部屋の前で止まると、力任せに扉を叩く。

 しかし、中から返事はない。部屋の住人は不在と普通は思うが、居留守をつかっていると彼女は知っている。

 長年の付き合い、性格はわかっていた。

 少女は無断で扉を開け、室内に入って行く。案の定部屋の住人は寝台に横になり、休んでいた。

 相手は、不機嫌な表情を浮かべている。全身で「何しに来た」と訴え、出て行くように伝える。

 このようなことで、少女は部屋から出てはいかない。

 これから行おうとする重要なことに、寝台で寝ている少年の助けがどうしても必要だった。

 頼み込むのもひとつの方法だが、そのような暇はない。

 時間は、刻々と迫っている。

「な、なんだよ」

「お願い! 手伝って」

「またかよ」

 毎度毎度、飽きずに同じことを頼むと少年は感心してしまう。

 少女の職業は、見習いのシスター。

 何でも一人前のシスターになる為に、日々努力しているらしい。一人前のシスターになるには、数年間の修行とテストが必要だ。

 少女はその修行を終えているので、なろうと思えばなることができる。

 しかし今だ“見習い”という称号がついている理由は、テストに合格しないからだ。

 筆記試験と実技試験。筆記試験は暗記で乗り越えているらしいが、問題は実技試験。

 どうも興奮すると、後先が見えなくなってしまう。

「今回も、引率?」

「そうそう。今回の実技試験は、かなり難しいらしいの。で、手伝ってほしいいのよ。どうしても」

「あれ? 実技試験は、一人で行うと思ったけど」

「こっそり隠れて手伝ってくれれば、大丈夫よ。それに今回も落ちたら、皆に笑われてしまう」

「ここまで落ちる人は、珍しいからね。母さんは、一回で合格し。だからセレーネが母さんのようになるには、百年早いよ」

 少年の母親は、有名なシスター。

 今は引退をし、旦那と仲良く二人で暮らしている。

 少年は、そんな二人から離れ一人暮らし。以前母親が勤めていた教会で働き、掃除・洗濯など全部をこなしている。

 お陰で見習いをはじめ、シスターの人気はずば抜けて高かった。

 それが悔しいのか、セレーネはいつも無理難題を押し付け、少年を困らせている。

 いわば嫉妬心だが、どうも醜い。