香織は、重いカバンを肩からおろして、それをそのまま地面に置き去りにして、そのベンチに走った。

自分の意志ではなく、本能的に、そうしなければならないように、彼女のもとへ走った。

美しいその人は、香織が彼女の前に立つと、スッと顔を上げた。

目に水が入らないように、目を少しつむりながら、けれど、まっすぐに香織を見つめた。


「雨、降ってるのに、なんで、座って、るん、ですか?」


じっと見つめられて、なんだかうまく話せなかった。

その人は、しばらく黙っていたけれど、ゆっくり、こう話した。