周りを見渡すと、ほとんどの人が傘を持っていなかったらしく、カバンを傘代わりにしたり、走ったりして、どうにか雨をやり過ごそうとしていた。

香織は、到底傘代わりには出来そうにない重いカバンを持っているので、走れずにもいた。

だから、なんだか自分だけが浮いているみたいで、気恥ずかしくあった。


そんなとき、一人の女の人が目に入った。


その人は、香織と同じく、傘をささずに、のろのろと歩いていた。

慌ただしい雨の日の街だと、やはり、浮いて見えた。

けれど、香織がその人に目を引かれたのは、それだけではなかった。


綺麗だったからだ。


それも、なんだか、生きていないんじゃないか、作り物なんじゃないか、っていうくらい、綺麗だった。

テレビで見る女優や、雑誌で見るモデルよりも、ずっとずっと綺麗だった。


よろよろと歩いていたその人は、道端にある、ベンチにゆっくりと座った。

そうして、そのまま、じっと、動かなくなってしまった。


動かないと、ますます、作り物みたいだった。