ミラクルかと思うほど―――
またまた信じられないことが起きた。
あの騒動から、1か月。
明日はジローの誕生日で。
あれからすぐ入籍した私たちは、国内だけれど新婚旅行に連休を利用していくことになった。
で、その前に。
すったもんだの末、高楼出版社と和解し。
また翻訳を頼まれることとなって、旅行の前日だけれども打ち合わせにやってきた。
で。
現在、応接で、塩崎さんを待っている状況なのだけれど。
何かあれ以来、俄然高楼出版社の待遇が良くなって・・・目の前には私の好きなお店のケーキとコーヒーが・・・。
今までなら、打ち合わせ室か事務所の方だったのに。
「え?・・・本気?ジロー・・・。」
「おう。」
ジローの言葉に固まる私に、ジローはクスリと笑い、私の髪をクシャッと撫でた。
って、ちょっとときめくジローの仕草だ。
・・・なんて、うっとりしている場合じゃなくて!!
「本当に?今回から?私が直接、翻訳請け負うの!?」
そう、今までのは私がジローの名前で受けた翻訳だった。
だけど、今回から・・・私の名前で受けろ、と言われ。
と、いうことは、翻訳家として・・・デビュー!?
えええっ!?
驚きが隠せない私に。
「もう、そろそろいいだろ。今だって、俺の受けた仕事ほとんどお前がやってるし。まあ、わかんねぇとこあったら、今まで通りバックアップすっから・・・そんなに緊張すんな。別に、今までと変わんねぇよ。お前が困ったときは、俺がフォローして。俺のフォローはお前がしてんだし。てゆうか、助けてもらってんのは俺の方が割合デカいし?お前いなかったら、俺生きていくの、無理、ってほどだぞ?」
ジローが、いきなりそんなことを言った。
「ジロー?」
「お前・・・不安なら、俺に言えよ。ほかの男に言うな・・・和田から、聞いた。」
あっ、と思った。
「ご、ごめん・・・。」
「で、何だっけ?自分に自信ない、だと?んなもん、俺だってねぇよ。」
「ええっ、ジローがっ!?だって、いつも自信満々って感じで・・・。」
「これは、性格だ。」
「ブッ・・・確かに。」
「笑うな。あのな、俺だって、不安になるときあんだ。まず、俺はお袋が惚れた男の子供じゃねぇし?」
「・・・ジロー。」
先日の、ジローの実家での話を思い出した。
「だけどな、お袋が。死ぬ前に言ってくれたんだ。薫さんと同じ・・・『私の息子に生まれてきてくれてありがとう。』って。姉ちゃんにも、言ったそうだ。その言葉って・・・結構グッと、キてなぁ・・・よくわかんねぇけど、俺の支えみたいになってる。何か、不安なことがあると、それ思い出す。お前だって、『まりあ』って名前・・・支えになんじゃねぇか?少なくとも、薫さんはずっと、まりあ、の名前が支えになってたんだよな?」
ジローの言葉がじんわりと、心にしみた。
「ジロー・・・。」
やっぱり、色々難点はあるけれど・・・ジローを選んでよかった。
無理、なんてあきらめなくてよかったと思い・・・ジローを見上げた。
ジローが好き・・・。
ジローも、そんな私をみつめて・・・顔が近づいてきて――

