「そうなんですよー。私の友達が、北島さんと小学校、中学校が同じでー。そのコに聞いたんですぅ。お母さんがクラブのママさんだっていうのは、有名だったみたいだしー。卒業式に来ていたお父さんを見てすごくイケメンだったから顔をよく覚えていたみたいでー。で、そのコ高校に入って、先輩から回ってきた昔のAVビデオ見たら、北島さんのお父さんが出ていてびっくりしたんですってー。やっぱり、親が親ならねぇ・・・北島さんの男遊びが激しいのも、頷けるっていうかー・・・ねぇ?これを知ったら、さすがに山岸先生も、引くんじゃない?」



よくもまあ、そんなに口が回るもんだと、感心しながら私は東野さんのグロスの口元を見ていた。


カフェ中の人が、注目するのを十分意識しているのがわかる彼女からは、悪意しか見て取れない。


今度は、東野さんに和田君が詰め寄る。



「和田君、いいよ。私の母が銀座のクラブの経営者で、父親はそのクラブのマネージャーだっていうのは事実だし・・・まあ、さすがにAV云々っていうのは初耳だけど。でも、東野さん、ジローは知ってるわよ?もともとは私の父の飲み友達で、私の家庭教師頼まれて引き受けたのが、知り合ったきっかけだし。それから、家に入りびたりだったし。親とも仲がいいし。今更、ここで知ってること発表されても、引かないと思うけど?・・・それより、いいの?こんなカフェの真ん中で。私と違って清純派のあなたに、高校生でAVビデオ見ていたお友達がいたなんて発表して?それ、男子よね?・・・てゆうか、清純派のあなたにAV見たってお友達が言うなんて・・・清純派のあなたの会話にそういうのがでてくるんだー。へえぇ・・・清純派のあな――「うるさいわねっ、ふしだらな家の娘にそんなこと言われる筋合いはないわっ!山岸先生のおうちは、由緒ある家なのよっ!!おじいちゃんが言ってたわっ。あのクリプト家具の社長の弟だって!そんな家にあなたが合うわけないでしょうっ!?」




東野さんが絶叫した。


って、6年もつきあっていた私が知らないジローの家の事を、よく知っていたな・・・と逆に驚いた。


カフェ内は益々静まり返って、不気味なほどだ。


何か、私・・・悪い事していないのに、アウェー状態だし。


まあ、和田君が心配そうに私を見ながら、東野さんを睨みつけているから・・・サポーターは1人、確保はしているけれど。


でも、気分のいい状況ではないよね。


仕方がないので、私は備え付けの紙ナプキンを数枚とり、広げ。


食べかけのケーキを包みだした。


男子の和田君は既に平らげていた。


そんな私を見て、さらに東野さんは鼻で笑い。




「貧乏くっさ。」




と、暴言を吐いた。


周りのテーブルに座る女子や男子も、クスクス笑う。


まあ、所詮、価値観が合わない連中だ。


そう思い、腹も立たなかったのだが。




「いい加減にしろっ!!」




突然の怒鳴り声が聞こえた。


少し離れたテーブルの席からスーツの男性が、立ち上がった。




「ま、丸山・・・理事長?」




震えた声で、東野さんがつぶやいた。


って、確かに。


振り返った男性は、仕立てが良く品のいいスーツ姿の、年輩ではあるけれど美しい顔立ちの、丸山学園長だった。