東京にもどって。
翌日、私は図書館にいた。
4年生で、卒業に必要な単位は取ってしまっていて。
本来は、ゼミ以外学校に来ることもないのだけれど。
そうは問屋がおろさない・・・もとい、ジローが許さなくて。
ほとんど助手扱いで、今日もジローの午後の講義が終わるまでに下調べをしておけと言われて。
仕方が無く、せっせと資料をあさっている状態だ。
まあ、これが終わったらご飯を食べに連れって行ってくれるらしいから、許すけれど。
珍しく、フレンチに行くそうで。
今日は、少ししゃれたワンピースを着てきた。
いつもは雰囲気もあまりないガッツリ系のお店が多いのに…あ、でも、今日はスィーツが食べられる。
そう思うと、やる気が出てきた。
だけど、膨大な量をこなし、どうにか残りわずかとなって。
少し疲れてきた私は資料から顔を上げ、首を回した。
途端に、ゴキッ、と結構響く音が出て。
「ぶっ。くくくっ・・・。」
誰かに聞かれたらしい・・・。
恐る恐る振り返ると。
「和田君。」
後輩の、和田君がゲラゲラと笑っていた。
「良い音しましたねー。」
「タイミング、良すぎ。」
「そうですねぇ・・・北島さんちょうど疲れているみたいなんで、今ならお茶にさそいやすそうだし・・・タイミングばっちりじゃないですか?」
「誘われなくても、丁度コーヒー飲みたかったから、いくけど。」
「じゃぁ、お供します。」
そう言うと、和田君はうれしそうに私の椅子を引いてくれた。
そうそう、和田君って案外ジェントルマンなんだよね・・・どっかの俺様な乱暴者とは大違い。
「俺がおごりたかったのに・・・何で、北島さん逆に俺の分まで出すんですか・・・。」
恨めしそうに、和田君が私を見た。
図書館からわりと近いカフェに入って。
丁度ケーキも食べたかったので。
確か和田君も甘いものが好きだったと思い出し、さっさと勝手にケーキとコーヒー2人分を買ったのだった。
「だって、私先輩だし。それに、バイト代結構もらってるから・・・私に悪い、って思うなら、今度は後輩におごってあげて?こういうのは順番だよ。」
そう言いながら、早速ケーキを口に入れた。
脳細胞に染みわたり、疲れがとれるようだ。
「はあ・・・その格好よさあいかわらずですねぇ・・・それに、あはは・・・北島さん、旨そうな顔しすぎ。って、バイト代って・・・そんなに、山岸教授からもらってるんですか?まあ、小間使いみたいに、教授に北村さんつかわれてますもんね・・・。」
「ああ、ジローの雑用は別にバイトじゃないわよ。単なる愛情の奉仕?うわ、自分で言ってちょっとキモいけど・・・ほら、あのとおりガサツだから、放っておけないでしょ?・・・じゃなくて、翻訳の方・・・結構数があっていいお金になるのよ。」
「って、結局ノロケかぁ。でも、北島さんの実力なら、翻訳も、そうですよね。」
「あはは・・・実力なんて、そんな大したもんないよ。」
「何言ってるんですか。北島さんの訳って、なんていうか・・・独特で、雰囲気があって・・・センスあると思うんですけど・・・上手く言えないですけど・・・行間の間に良い間があるっていうか・・・あれ、何言っているか、わかんなくなっちゃいました。あれっ?・・・えーと・・・・。」
「あはは・・・和田君、大丈夫、大丈夫。ありがと、ほめてくれる気持ちは充分伝わったから。お世辞でも嬉しいよ。」
「お世辞じゃないです!!俺、本当に、ほめています!!それに・・・北島さん、本当は、外見ですごく損していると思うんです!・・・・って。あ、いや、凄く綺麗ですから、いや、それは、凄くいいんですよっ!?・・・じゃなくて、外見だけで北島さんの中身の良さを見ようともしないで、群がってくる奴らがいるから、俺、腹が立って・・・それに、それに嫉妬する女子らも勝手に北島さんのこと誤解して・・・酷い事いいやがって・・・。」
私の事なのに、熱く語る和田君に驚いた。

