「やっぱり、縁があったね?」
ジローの研究室で再会した、あの取材に来ていた高楼出版社の片岡さんって人がそう言って。
ジローがムッとしたので、慌てて経緯を話したのだが。
「あ、あのねっ・・・ほら、この間・・・ジローの浮気疑った時・・・頭を冷やしたくて・・・一晩ファミレスにいたの・・・・で、その時に、この方が雑誌にでないかって、声をかけてきて、会ったの・・・でも、断って、パソコンを私が使いだしたから、もう声はかけてこなかったけど。」
ジローの不機嫌な空気がただよい、たどたどしく説明した。
まあ、後ろめたいところはないから、いいんだけれど。
だけど・・・突然。
片岡さんが、とんでもない爆弾発言をしたから、ジローが大変なことになったのだった。
「まだ、あきらめてないから。俺、学芸雑誌担当だけど、本当はグラビア雑誌担当したいんだ。どう?俺と組んで、グラビア誌に売り込もうよ。絶対にイケると思う!君、滅茶苦茶魅力的な、被写体だし・・・特に、あのメンソールのタバコをくゆらせながら窓の外をみる横顔なんて、最高に格好よくて、俺――「ああっ!?まりあっ、お前、まだタバコ吸ってんのかっ!?」
絶対に、タバコは吸うなと言われていて。
私もわかったと頷いていたから、嘘をついていたことにジローが怒ったのだとその時は・・・いや、ジローのお母さんの病気を聞くまでは、思っていたのだった。
「ジロー・・・お母さん、タバコ吸ってたの・・・?」
ジローの言葉に、私は衝撃を受けながらも、聞いた。
「おう、ヘビースモーカーってやつ?・・・タバコ、やめさせときゃ良かったって・・・俺何度も後悔した・・・まりあ・・・お前は、肺ガンの心配だけじゃねぇぞ?将来、俺の子供産むんだぞ・・・頼むから・・・タバコやめてくれ。それに、飯もちゃんと食え。お袋も、低血圧で、あんま食べない人間だったからよ・・・お前と、タイプ似てんだよ・・・だから、俺、心配で・・・なぁ・・・お前がいなくなったら、俺、どうすりゃいいんだ?頼むから、タバコ止めてくれ。」
山岸家のお墓の前で、ジローに・・・私は懇願された。
そして。
私は、山岸家のお墓の前で、タバコは吸わないと誓わされた。
ジローと結婚することになって。
それはただ一緒に生きていく覚悟だけではだめなんだと、私は改めて思った。
ジローにこんな不安な顔をさせるような女では、駄目だと。
不安な女のままでは、ジローの横にいるのは無理だと。
自分に自信が、ない・・・。
自分の不安もそうだけれど、ジローを不安にさせてはいけないと。
それには、どうしたらいいのだろうか・・・。

