「んで、俺が生まれて・・・でも、お袋が強運すぎんのか・・・親父、武道派でガタイもいい頑丈な男だったんだけどよ・・・俺が10歳の頃、落雷で突然死んじまってよ・・・お袋はその後結婚しなかったんだけど・・・親父がいなくなったら、俺の耳にも姉ちゃんは親父の子供じゃねえって、うわさが入ってきて・・・。真相聞けば聞くほど、何かハラ立ってきて・・・好きでもねぇ男の子供の俺って何なんだって・・・。で、それからちょっとグレてなぁ・・・だけど、高2の冬にバイクで事故って、生死の境をさまよって・・・目が覚めた時に、やつれきったお袋に泣かれて・・・まあ、ちょっと反省したんだ。で、少しお袋と話してみようって思った矢先・・・お袋が、病気になってなぁ・・・辛い闘病の末、俺が大学卒業するころ・・・死んだ。」
「ジロー・・・。」
亡くなったお母さんの話は、思い出しても辛いのか・・・。
ジローは、震えた声を詰まらせながら、私に一生懸命話してくれた。
だけど、瞳は一度も私からそらすことはなくて。
そして・・・。
「なあ、まりあ・・・お袋、何の病気だったか、わかるか?」
と、私に質問をしてきた。
わからないので、首を横に振ると。
「肺ガン、だった・・・。」
「!」
ここで、ようやく・・・昨日、ジローが怒って・・・ここに私を連れてきたのかが、理解できた――
私は、不満や不安・・・悲しみなどを内に秘める性格で。
それは、一概に家庭環境のせいだけではないと思うのだけれど。
多分、もって生まれた性格もあっての事だと思う。
もともと、口数の多いほうではなかったし。
マイナスなことを口にだしたって気分のいいことではないから、心の内の事を人に話す習慣はなかったのだ。
だから、意識はしていなかったが、ストレスというものは目に見えないところで、溜まっていたのだろう。
最初、アレ?・・・と思ったのは、奥歯の痛みだった。
高校3年進路を決める時・・・ジローの影響で英米文学の楽しさにハマっていた私は、大学の専攻は他には考えられず迷うまでもなかった。
そうなると、ジローは自分が教えるから、自分の大学に入れと言いだし・・・私もジローと一緒にいられることを考えたら、そうしたいと思ったのだけれど。
高3の夏に、大学の見学に行って、ジローが私に対して普段通りの対応なので・・・例のごとくすぐさま女子学生のやっかみの的となり。
「山岸教授の彼女ってだけで、合格まちがいなしよねぇ?」
と、陰口をたたかれた。
いつもは、くだらない陰口なんか気にしないが。
今回は、ジローがまるで女で左右されるような人間だと言われたように聞こえ、冗談じゃないと、思った。
だから、ジローとは関係のない別の大学に行こうと思って、ジローにそれを告げると。
「んだったら推薦蹴って、もっと勉強して、自力で受験して1位で合格しろ。」
と、とんでもないことを言ってきた。
私はこの大学の付属の高校へ通っていたから推薦を受けようと思っていたのだけれど。
ジローは聞く耳持たずで。
で、結果死にもの狂いで頑張って、どうにか1位で合格したのだけれど。
合格するまでのプレッシャーがかなりあって。
それは、大きなストレスとなり。
体に、現れた。
無意識に、キツく奥歯をかみしめていたようで・・・気づけば奥歯がグラグラになっていたのだ。
さすがにまずいと思って、ストレスを何かで解消しようと思ったのだが、いい手段がみつからず。
ふと、昌が吸っていたタバコについ、手を出した。
結局、それで精神が安定し、気分転換になったのだけれど。
すぐに、ジローにバレ。
まず第一声、未成年が何やってんだ!と怒鳴られ。
体に悪い、女がタバコを吸うな、と滅茶苦茶怒られた。
その時はジローもタバコを吸わないし、単にタバコを吸う女の人が嫌なんだろうと理解したのだけれど。
でも、やはり、精神的にキツくなると、ついタバコに手が伸びるのは、治らずで・・・。
まあ、ジローはあまり神経質ではないし、臭いにもそんなに敏感ではないので。
タバコを吸った後、歯磨きやガムを噛めば、気づかれることもなかったのだけれど。

