やはり、ジローの家は由緒ある家なのだと、お墓を見ても思った。
山の中腹の見晴らしのいい場所にある墓場一帯の一段高い、一番整備された場所に山岸家の墓があった。
先祖の墓はいくつかに分かれていたが。
今は、山岸家本家の墓は一つに統一されているらしく。
でも、墓石は、石碑かと思うほど大きな御影で。
「何だよ、何ため息ついてんだ?朝まだ早いから、眠いのか?」
無意識にため息をついていたようで、墓石を拭くジローが心配そうに私を振り返った。
「あ、ごめん・・・そうじゃなくて・・・ジローのうちが、凄く立派でびっくりしてるの。」
「まあ、なぁ・・・元は領主だもんなぁ。戦後、法律で随分土地を小作人に渡したけどよ・・・んでも、随分山とかあるもんなぁ。んで、クリプト家具が思ったよりデカくなったしなぁ・・・。」
「はっ!?山!?・・・クリプト家具って、あの!?高級家具ブランドの!?」
さらっと言った、ジローの言葉の中にありえない内容があって、私は大きな声を出した。
「あ?・・・・ああ、お前にいってなかったな、そおいや。うち、山林けっこうあってよ、まあ、林業も大きくやってんだけど・・・死んだお袋が林業だけじゃつまんねぇって、すげぇ若い頃に、クリプト家具立ち上げたんだよ。ほら、檜・・・ここには、いっぱいあんだろ?檜の家具があたってよー、まあ、お袋も姉ちゃんみたいにすげぇ、度胸のいい女だったからなぁ・・・会社があたって・・・今じゃ一流企業みたいになってっけど。もとは田舎の家具屋だ。」
「・・・・。」
おどろいて、声も出ない・・・。
クリプト家具って言えば、素材を吟味した高級家具ブランドで・・・一部上場の大企業だ。
ジローの話を聞いて固まった私を、ジローは抱き寄せた。
「んな、顔すんなよ。家は姉ちゃんが言った通り、姉ちゃんが継いで、クリプト家具の社長も姉ちゃんだ。俺は、別に実家ってだけで、外に出てるし。金持ってるつったら、まりあんとこだって、薫さんすげぇオファーばっかきてっから、変わんねぇだろ?」
何でもないことのように、ジローは言うけれど。
ひとつの、嫌な可能性が浮かんだ。
「ジロー・・・何で、後・・・ジローが継がなかったの?」
もしかして、私と結婚するために・・・ジローは後を継ぐのをやめてしまったのかもしれない・・・そんな考えが頭に浮かんで・・・。
もし、それが本当だったら、私は――
――ゴンッ!
「イタッ!?」
いきなり、ジローがゲンコツを私の頭に落とした。
「アホか。ったく、何でお前はそう、ネガティブなんだよっ。あのなぁ、俺は別にお前と出会ったから、家を継ぐのをやめたわけじゃねぇよっ。」
どうやら、私の思考はジローに読まれていたらしい。
不機嫌な顔で私をジローが見下ろしたけれど。
結構、ゲンコツが痛くて、涙目になっている私の顔を見ると、フッ、と笑った。
ジローは結構乱暴でガサツだけれど、時々。
こうやって、優しく笑うところが、少し・・・魅力的で。
女心を、くすぐったりする・・・・ずるいと思う。
恥ずかしくなって、俯くと。
顎に手をかけられ、強引に顔を上に向けさせられた。
「ちゃんと、俺の顔を見ろ。誤解すんな。姉ちゃんが家を継ぐことは、最初から決まってんだ。うちは、女系の家なんだ。」
「え?・・・女系?」
「おう、女が、家を継ぐ決まりだ。よほど女が生まれなかったら、男が継ぐけどよ?女が普通は後をとる。んで、全部婿をとるんだ。」
婿と聞いて、お姉さんのあの物静かなご主人を思い出した。
そんな私に、ジローは次々に驚く話を聞かせてくれた。
「なあ、姉ちゃん・・・随分俺と見てくれ違うだろ?あれな、父親が違うんだよ。お袋が結婚する前に、好きだった男の子供を産んだんだ。それなりにセンセーショナルだったらしいけどな?まあ、跡取りだ。未婚といえども生まれてきたのは女だし・・・で、おまけに、お袋は誰にも文句はいわせねぇって、会社立ち上げて大成功させて・・・ああ、クリプト家具な?で、軌道に乗った30過ぎに、親父を婿にとったんだ。」
「・・・・。」
やっぱり、慈朗のお母さんだ。
凄すぎて、言葉もでない・・・。

